初めて訪れた喫茶店で、居合わせたお客さんと話すことがある。マスターやママさんと話をする。大方は他愛ない内容だから、店を出てしばらくすると忘れてしまう。それでいいのだと思う。
某県内のある喫茶店で出会ったお客さんは大柄の強面の男性だった。今時珍しくパイプを吸っている。店のママさんはにおいがこもるといけないからと換気扇を回すのだが、良い香りが漂ったのでお声がけすると応じてくれた。こんなおっかない体型だから見た目で嫌われがちだと自虐がちに語る。ぽつぽつと世間話をした。店のTVはウルトラマンオーブを放送していた。今時のウルトラマンはこういう変身をするのか。これも良いけど、初代のウルトラマンはやっぱり格好良いねと話したりした。
「今はね、あなたと楽しく話しているけど、もし店ではなくて町ですれ違ったとしても、挨拶は絶対しないよ。そんなものだよ」男性は真顔で話した。誠実な人だと思った。その場所、その時間をたまたま共有していて、居心地が良い。それをお互い感じているからこのような会話ができるのだ。その場限りのおしゃべり、互いに身分を名乗らなくても良い気楽さ。いったん店を出ると、性別、年齢、肩書き、やるべき仕事を思い出し、現実にかえる。店での会話はたとえ現実の話ばかりであっても、周りも自分も少しだけ俯瞰してみることができるようで、抱えていることやしがらみを少しだけ忘れられる。
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