自由なミックスジュース

東京都

「まだ作ってないから(変更しても)大丈夫よ」
ミックスジュースとホットドッグ。注文の品を伝えた後に未練がましくメニュー表を見ていた私に優しく声をかけてくれたママさん。
「これで大丈夫です」と伝えながら、目はまだメニュー表を追っていた。ずっと前に来たときから値段が変わっていないのではと思う。

扇橋みどりやのミックスジュースとホットドッグ

久しぶりに扇橋の『みどりや』に来たのは、ツイッターのフォロワーさんの投稿を見たから。それをそのまま伝えると、うちの店はインスタグラムやツイッターをやらないが、お客さんの投稿を見て店を訪れる人もたまにいると答えてくれた。本日はイチゴとオレンジのジュースで、苦手な果物はないか、さりげなく確認してくれる。ジュースにする果物えらびは、食べてみておいしいと思った品種を購入するそうだが、「ジュースの値段があるからあまり高いものは出せないけど、おいしいのは少し割に合わなくても買っちゃうの、ばかだから」と笑うのだった。

スーパーで買うより木に成った果物のほうがおいしい。時々分けてもらうことがあるけど、いつも手に入るわけではないから、とママさん。木で熟しているのは甘いんだよね、と先客の男性。

さらに男性は「クリームソーダもおすすめだよ。久しぶりに飲んだらおいしかった」と私に薦める。
「そうなんですか。今日みたいな日はクリームソーダ、おいしそうです」というと、「真面目にとらなくてもいいのよ」とママさんは軽くいなした。

常連客の多い店に入ったときの自分は異物である。だが、この店のように店主がうまく采配していると疎外感はない。初めてのお客同士でもママさんを介して何となく会話が成り立つ。会話に入らなくても心地よいし、ママさんを中心としてゆるやかな一体感がある。とても居心地がいい。

店の歴史を少し伺った。氷室として使用していた倉庫を改修し、喫茶店にしたのが60数年前。外看板は「みどりや」の表記だが、紙の伝票は「みどり屋」となっていた。
初来店は10年以上前だったが、その頃からカウンターに置かれていた小型冷蔵庫が気になっていた。オロナミンCのロゴが入っているが、冷蔵庫は現在使われていないようだ。

扇橋みどりやの店内

オロナミンCのメニューのことや冷蔵庫についてたずねてみた。オロナミンCはあまり多くは出ないが、頼むお客さんが何人かいるので数本ストックしているという。

「え、オロナミンCなんてあったの?」と男性客。「あるわよ、ここに」とメニューを指すママさん。
なぜオロナミンCの冷蔵庫があるかはわからないけど、おそらく販売したばかりの頃に営業さんから置いてほしいと頼まれたのだろうとの答えだった。冷蔵庫はTVCMを打って宣伝活動に努めていた昭和40年代頃のものだろうか。オロナミンCは、今では駅の自販機やコンビニなどどこでも売っているから、どんな人が注文しているんだろうと思っていたと話すと、昔の思い出話を教えてくれた。昔、店に来ていた小学生のお客さんは、オロナミンCにアイスを載せてほしいと注文していたそうだ。栄養ドリンクにアイスの斬新な組み合わせ。おいしそうに食べる姿を想像してしまった(注:昔話として語ったもので、普段はメニューにないものは受付けないようなのでご注意ください)。現在は喫煙目的店なので未成年のお客さんの入店を断っているが、以前はジュースを目当てに訪れる子どもさんが来ていたらしい。

先客の男性が席を立った。お先に、と私にも声をかけてくれたが、その一言がとてもうれしかった。

その後に入れ替わりのように現れたお客さん。なんとオロナミンCとレモンスカッシュを注文していた。
帰り支度をしていた私に「せっかくだから、作ったやつをみていけば」とママさんから声をかけられた。ジュースと同じグラスに氷を入れ、その上から黄色い液体が注がれる。「こうやって飲むとおいしく感じるのかもね」とママさんが言う。注文した方から「飲んでもいいよ」と冗談で言われたのだが、うまい返しを思いつく前に「や、ダメですよ」と即答してしまった。

今度来るときは何を頼もうか。やっぱりオロナミンCか。薦められたクリームソーダか。いや、そんなのその日の気分でいいか。みどりやのジュースに決まりごとがないように、ジュース類を1人で2品注文する人がいるように、好きにすればいい。

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