東海地方・都市近郊のモーニング

中部地方

本年最初のブログは過去に訪れた喫茶店の記録です。毎年夏か秋に北陸に帰省するついでに別の街に寄るのが近年のパターンになりつつあります。2021年秋は津島から名鉄尾西腺で六輪駅に向かいました。目ざすは赤目街道沿いにあるロードサイド喫茶店、赤とんぼ。

東海地方は街なか、駅前に加えて住宅地にも幹線道路沿いにも喫茶店が点在している印象がありますが、こちらを知るきっかけとなったのは、約30年前の雑誌の特集にて見開きカラーで大きく取り上げられていたことでした。記事では東海地方のモーニングサービス競争の過熱ぶりを取り上げ、愛知・岐阜の都市近郊や郡部の喫茶店のモーニングを紹介しています*。県営住宅と公団住宅の建設予定地の近隣に移転・開業した赤とんぼはその当時、田んぼのど真ん中にある喫茶店でした。記事には朝の3時間半で平日300名、週末は400名が訪れ、平日は農家の人たちが仕事前に立ち寄り、週末はモーニングサービスを楽しむ家族連れで賑わう繁盛店とあり、座敷席で一家揃ってモーニングを楽しむ様子を写した写真が掲載されています*。その写真が非常に印象深かったです。休日の朝からクルマを飛ばし、一家揃ってモーニングを食べる。モーニング文化のない街で育った自分にとって、喫茶店は1人か2、3人でコーヒーを飲みに行くところ。食事をしたり、家族で訪れる習慣がないので、ものめずらしく思いました。

某日の週末の朝、赤とんぼへ向かいました。揃ってモーニングを楽しむファミリーはあるのだろうか。駐車場には何台かの車が停められ、店内は8割程度の混み具合でしたが、比較的年配の方が多く、子ども連れの家族の姿は見られませんでした。店主らしき方とホール担当の合計3名で店をまわしており、お忙しそうでした。

幸運なことに件の広い座敷席は空いていたのでそちらに座ることに。モーニングは好きなドリンクにゆで卵とミニサラダ、パン半切れ。バターまたは餡子付きが選べるシンプルな内容でした。パンのカットの形状は異なっていたものの、トースト、サラダ(当時は缶詰フルーツやおかき)、卵が木製プレートで提供される形式は、1989年の取材当時とあまり変わらない内容でした。お店にとって利益は少ないであろうモーニングサービスは、毎週か毎日のように通うお客さんが何人もいるからこそ続けられるのであって、我々のような余所者には大変ありがたいと思いました。

朝のお忙しい時間に大変恐縮でしたが、店主さんとみられる女性に少々お話を伺うことができました。赤とんぼはこの辺りで飲食店がごく少ない時期に始めたため当時は混んでいたそうで、モーニング営業も今よりずっと忙しく、数回転していたと語ってくださいました。記事の掲載写真を見て今と全然変わらないのが恥ずかしいと仰っていましたが、変わらずここにあることがうれしく思いました。お昼は鉄板で焼いたナポリタンや焼きそばが人気だそうで、現在は息子さんが調理を担当しているそうです。

そうそう、去年美味しいコーヒーの店に選ばれたのよ、と店主さん。美味しいコーヒーの店という垂れ幕が店の前にあります。こちらは珈琲豆卸のシーシーエスコーヒーが選んだ「美味しいコーヒーの店2021」に選出された店舗だそうで、ネルで二度抽出されたコーヒーが評価されたとのことでした。

後日CCSコーヒーのサイトを閲覧すると、お得意先の喫茶店やレストランから毎年6-7店舗「美味しいコーヒーの店」として選出する企画で、選出店舗を掲載した冊子の配布とCCSコーヒーのHPに掲載されています。2009年から始まった企画で、2021年版では赤とんぼも紹介されていました。「美味しいコーヒーの店」の企図について、シーシーエスコーヒーのサイトにはこのようにあります。

「本企画は、弊社お取引のお店の中から『美味しいコーヒー』の提供と、お客様へのサービスを心がけていらっしゃるお店をご紹介するものです」

「一般的にコーヒーショップの商圏は大変狭い範囲で、もしかしたら、“美味しいコーヒー”を提供しているお店の前を、いつもは通り過ぎているかもしれません。何かの機会に、このガイドが来店のきっかけとなり、“美味しいコーヒー”を体験する一助になればと願っております。」

自分も含めて喫茶店巡りの人は全体からみれば少数派で、多くの人はいつも決まった時間に決まったお店のコーヒーしか飲まないことを再認識しました。しかし、数多くの店を知っているはずの周遊派の方でも、良いお店を見つけ出す難しさについては感じるところがあるのではないでしょうか。ネット情報過多であるからこそ、すぐに質の良い情報に辿り着くのは難しいことを私自身も痛感しています。

このガイドに掲載された紹介文は愛知、岐阜にある喫茶店やカフェがバランス良く紹介されています。選出されたお店もSNSやメディア等でよく触れられているような特定のお店ではなく、担当者の方が日頃、数多くのお取引先の店舗に足を運んだなかから選んだと感じられるお店が紹介されています。また、情報がコンパクトにまとめられていることからも、制作に労力がかかっていることが想像されます。何より、こちらの企画自体が地域を大切にする会社としての思いを感じます。

関東住みのため私自身はなかなか訪れる機会に恵まれませんが、ガイドを見て行きたくなったお店がいくつかあります。これまでに何度か愛知・岐阜は訪れていますが、今年は郊外エリアをまわってみようと考えています。

シーシーエスコーヒー株式会社のHP:https://www.ccscoffee.co.jp/index.htm

*参考 『月刊喫茶店経営』1989年11月号
特集ページの編集後記では愛知・岐阜の郊外エリア・郡部の喫茶店モーニングの特色について以下のようにまとめています。

地域密着型で気取らない普段着の雰囲気で、従業員が客の好みを把握して接客する店に人気が集まる。
ドリンクの値段のみでトースト、ゆで卵などが付く「サービス」を提供する店が多く、ドリンク代にプラスした「セット」は多くない。
繁盛している店はやたら豪華なモーニングではなく、原価計算を行い人件費もコントロールしている。

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