都内の喫茶店の状況 2020年4月上旬

臨時休業の貼り紙 東京都

2020年4月、緊急事態宣言直前の都内の喫茶店についてメモした内容をまとめました。

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、多数の飲食店が休業したり営業時間の変更を余儀なくされているなか、今のところ近所の喫茶店の多くは通常どおりの営業を続けている。4月1日からは受動喫煙防止条例が施行された。飲食店は禁煙にシフトした店が多いが、私の住む近隣に限れば喫煙OKのステッカーを貼った喫茶店のほうが多い。全面禁煙に変更したところもあるが、ごく少数派だ。

近隣の喫茶店は店主も常連客も高齢者であることが多い。SNSには高齢者の多い喫茶店には入りづらいという主旨の投稿を複数見かけた。私も同じ気持ちで100%安全かどうかも分からず、もしものことがあってはと不安になる。だが、こちらの不安を知ってか知らずか元気よく「いらっしゃいませー」と声を掛ける店主もいた。ある店では、東京都のコロナウイルス感染者数が100人を超えたというニュースを見ながら、お客は「うちの近所は発症者はいないよ、だってみんな近所しか出歩かないじゃない」などと言っていた。それに相槌を打つ店主は、ゴム手袋とマスクを装着して接客していた。できる予防はすべて行っているので、腹が座っているのかもしれない。

神経質になっている店主もいた。古くても清潔感のあるお店だから、店主はきれい好きなのだろう。普段はこちらから話掛けないと応じないのに、珍しく「今日は風が強いわねえ」と声を掛けてきたので、春は荒れますねえと応じたところ、堰を切ったように、今の不安を語り始めた。常連客の中には通院している人もいるのだが、その通院先の病院で院内感染があったらしい。お客さんだから歓迎したいのだけど、不安があるといいながらカウンターのアルコール消毒を行っていた。いつもこの時間に来るタクシー運転手の常連が来ないことも気に掛けていた。普段と異なる日常に不安を感じていた。帰り際には二度もありがとうございました、と言われた。

路地裏にある喫煙OKの喫茶店は、ランチ時にもかかわらず私以外の客はいなかった。ランチを注文して食べていると、おばあさんが訪れ、ランチメニューから2品注文して帰っていった。あとで誰か連れて来店するのかと思っていたが、来ない。しばらくして食器をお盆に載せたマスターが店を出ていった。店内で飲食することに不安を感じる高齢者のお客のため、出前に応じていたのだった。

都知事より不要不急の外出を避けるようにとの発表があった週末、普段なら営業している時間帯の喫茶店の灯りは消えていた。しかし、準備中の札も出ていない。奥を覗くと店内の奥で灯りを点けて常連客らしき人たちが2,3人、静かにコーヒーを飲んでいた。

対応に苦慮しながら営業を続ける店が多かった。来店数は減っても毎日通う客もいるし、休業しても補償が充分でない現状では対応はばらばらになるのだろう。私は2009年の鳥インフルエンザ流行時を思い出した。当時は近所の喫茶店でも鳥インフルエンザの話題で持ちきりだったが、店内の客は誰一人としてマスクは付けていなかった。マスクを付け恐る恐る横浜橋まで遠征した際には、商店街でもその路地裏の喫茶店でも、まるで誰もインフルエンザなど気にも留めていない空気だったので、ばからしくなって途中からマスクを外していた。あの時も街からマスクは消えていたが、今のような雰囲気ではなかった。

喫茶店に行くのがいいのか行かないほうがいいのかと問われたら、世間的にはなるべく行かないほうがいいのだろう。来店することが応援になるかと言ったらならない可能性も高いのかもしれない。けれど・・・・・・いつ落ち着くのだろうか。休業の貼り紙を見ると、かつて「しばらくの間お休みさせていただきます」の後、営業を再開せず閉店した数々の店のことを思い出してしまう。また、高齢の経営者も多いことから、コロナ流行を潮時に廃業もあるのではないだろうか。
ふと思う。遠くの街まで遠征し数々の喫茶店を巡る人と、勤務先や家の近くの店を定期的に通う人がいるとして、コロナを理由に突然店が閉店したら、よりショックを受けるのはもちろん後者だろう。前者は一期一会の出会いが目的なのだから、最初で最後の訪問になったとしてもさほど悲しまないのではないか。後者は決まった時間に店に行き、いつものメンバーと会話を交わしている。その習慣がある日突然失われ二度と戻ってこない。その時の喪失感は本人にしかわからないものだろう。
私には毎日顔を出す喫茶店はない。「あれ、〇〇さん、今日は来てないね」などと店主やお客の間で話題には上らない。こういう事態になってみて初めて、そんなお店を持っていないことを淋しいと思った。

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