由利本荘のサモワール

サモワールのテーブル 東北地方

昨年の晩秋、秋田へ行きました。約10年前は秋田市内と角館を駆け足でまわっただけだったので、今回はきっちり下調べをして臨もう……などと県内各地を調べていたところ、以前Twitterで拝見した投稿で気になっていた喫茶店のことを思い出して旅程に加えることにしました。
https://twitter.com/jounalduvoleur/status/929554361235136512?s=20 https://twitter.com/0_sole_mi0/status/1109386125678788609?s=20
きっちり下調べ……と書いていますが、営業時間や定休日すら確認もせずに訪れたのでドアに営業中の札が出ているのを見たとき心底ほっとしました。入口にやや長いアプローチがあるためドアを開けてもすぐに店内が見渡せない造りであることに少し緊張しながら奥へ進むと、美しいカーブを描いたカウンター、黒いビニールレザーの椅子に背もたれカバーを掛けた客席が視界に入りました。店内にいた2、3人の先客は全員男性の1人客で、店主は親切そうなショートカットのママさんが1人。東京から来たことを告げると、以前こちらの店が東京の人に取材されたのだと説明し、掲載誌を見せて下さいました。

サモワール内観
サモワールのアプローチ

掲載誌を差し出しながら「多分、うちが古いからという理由で取り上げられたんだと思いますよ」と小声で遠慮がちにおっしゃったのですが、私から古い喫茶店が好きだということを告げると、 アール壁、ガラスブロック、備付の音響装置など、見どころを丁寧に説明して下さいました。今のママさんが3代目として経営を引き継いでから約40年、店の創業年数は約50年とのことでした。カウンター周りはバーのような雰囲気もありますが、創業以来、一貫して喫茶店として営業してきたそうです。 ママさんから、「改装していない昔のままの内装で、床のビニールシートのチェック柄も可愛いし、天井まわりも凝っているからこの店は素敵なの――」という説明を聞きながら、私は果してそれだけがこの店の魅力だろうか?と感じました。
創業当時の趣のある内装が維持されていることも、お店が長く続いてきたのも、ひとえにママさん自身のモチベーションにあるのではないかと強く感じたからです。そう感じた理由は、テーブルに置かれた一輪挿しや絵画を飾ったフレーム立て、背もたれカバーなど、目に見えるものだけではなく、ママさんが馴染みのお客さん一人ひとりに「〇〇さん」と語り掛け、丁寧な接客を行っていたからです。もちろん提供された品もとてもおいしかったです。私が頂いた焼きうどんは辛めの味付けで、量もたっぷりありました。

ここでサモワールさんの訪問記はおしまいです。蛇足ですが、最近思っていることを書きます。
私が色々の喫茶店の中から訪れたい1店を決める時、重視しているのは立地条件とお店の創業年数です。長年営業を続けているお店では、現在の見ためだけでは分からない街の特色や、かつて栄えていた産業などについてを、店主やそこにいたお客さんから聞けるかもしれません。また、普段自分が身を置いている環境とは異なる価値基準に出会えるかもしれません。しかしながら、これが正解なのだろうか?とも考えています。結局のところ私は、趣のある内外装写真をネットで見て、そこからの想像できる範囲内で行きたい店を決めてきたからです。
お店選びのポイントに店のハード面(内外装)のみとしてきたことで他の視点を見失い、素晴らしい数多くのお店を見逃してきたのではないかと思うこともあります。サモワールは独自性のある内外装が保たれており店主さんも素敵な方ですが、もしサモワールが改築され、新しいごく普通の内装の店舗兼住宅となっていたとしたら、私はこちらを訪れることもなかったでしょう。
また、長く続けてきたようなお店に初めて行くと、時には新規客の来店を歓迎されないこともあります。極端な話ですが、過去には入口に但し書きが出ていないにもかかわらず「会員制の店なので」と入店を断られた喫茶店も都内で数軒経験しました。長く続いているお店ほど固定客が多く、顔見知りのお客と店主で完成された 空間を築いている傾向があります。そのような場所へは、お邪魔するという気持ちで訪れています。

それでも、趣のある外装の喫茶店を好んで訪れるのは、長年続いてきたお店の姿とそこで仕事をされている人たちの温かさに触れ、よい経験をしたことが何度もあるからです。私の好きなお店、自分の主観や好みが多分に含まれているため、万人受けするかどうかは分かりませんが……。よいと思ったところをどのように伝えるか迷うこともありますが、これからも好きな場所や人たちのことを少しづつ書いていきたいと考えています。

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