わたしは、コーヒーが格別おいしいとかフードやスイーツ目当てではなく、また、単にコーヒーやタバコで一服しにきたわけではなく、おしゃべりを目的とした客の扱い方をよく分かっている店主さんが営む喫茶店をこよなく愛します。面白いお話の引き出しをいくつか開けては、どう?と勧めてくれるような店主さんのいる喫茶店は、貴重な町のオアシス的な存在。しかし、こういった行こうと思えばいつでも行ける場所にある喫茶店ほど、記憶が曖昧になるものです。なので覚え書き。雑談の内容が9割なのでお店の名前は特に記しませんが(サムネはイメージで本文の内容とは関係ありません)、こういったお店は少なくなりつつあるとはいえ、まだどこかにあるはず。
ある日の午後。閉店1時間前に駆け込めば間に合う店を目指し電車に乗っていましたが、急に考えが変わり途中下車することにしました。こちらの閉店時間はもっと早かったような気がする。当たり。17時まで。すみませんと言いつつコーヒーを注文。今日はお客さんが多くてね、と店主さん。その日は花見がギリギリまだ間に合う快晴の日でした。今日は雨が止んで暖かかったし、人出も多かったですよね。少し雑談を交わしていたらあっという間に17時でした。店主の娘さんが閉店前に来店し、店の外では17時のメロディーが流れています。もう閉店ですねと席を立とうとすると、せっかく来て貰ったのに20分じゃ帰せないと言われ、雑談が続きました。数カ月前に見送った店主さんのお母さん(お義母さんかもしれない)の話が大半でした。介護が本当に大変だったと言いながら、お義母さんの面白エピソードを次から次へと。当時病気から回復した俳優さんが店のロケのために来店した際、その場にいた人は気遣って病気の話はしなかったのですが、お義母さんは「で、病気はどうだったの?」とストレートに聞いたそうです。その俳優さんは病気のことや体調のことを率直に話してくれたそう。「周りが気を遣っていたのに困っていたのかもしれない。ちゃんと病気のことを聞いてくれて嬉しかったんじゃないかなと思った」と店主さん。その後もサインをしたがる俳優さんの話を聞いたりして、TVでは見せない一面があるよねと相槌を打っていると、あっという間にまた30分ほど経ってしまいました。今思うと、店主さんは慌ただしい日々のなかで、お母さんとの別れについて整理したかったかもしれません。よく知りもしない私に話を聞かせてくれたのは、生前のことを知らない人だからこそ、気楽に話してくれたのかもしれないなと。面白い語り口のお話にすっかり聞き入った夕方でした。
またある日の雨あがりの日。こちらのお店も閉店1時間前に訪れました。今週から1時間営業時間を延ばすことになったからちょうど良かったと店主さん。いつもなら閉める時間だったようで、ほっとしながらホットコーヒーを注文。テーブルに出してくれたロゴ入り灰皿に書かれているお酒の銘柄が聞いたことのないものでした。そのことをたずねてみると、今では扱ってないかな。酒屋さんから灰皿を沢山貰ったから今も残っているんだよと店主さん。その当時、来店したお客さんが灰皿をみて銘柄の名前が気に入り、当時駅前にあったパブかキャバレーを新装オープンする際にその名前を付けたとか、という話を聞かせてくださいました。店主さんは昨年お身内を亡くされたばかりで、色々な手続きが本当に大変で、あっという間に半年が経ってしまったそうです。お若くお元気そうに見えましたが、もう後期高齢者だよと店主さん。そこへ「こんにちは」と来店したのは店主さんの娘さん。店主さんの食事や日用品の買い出しで顔を出したそうです。今月は祝日があるけど、近所の人の集まりで使いたいので店を開けるという店主さん。娘からは健康のためにお店を続けてほしいと言われてるからね、と。
両方の喫茶店に共通するのは近所に店主さんの娘さんが住んでいること。高齢の店主さんにとっては息子や娘が近くに住んでいるというのは心強いことです。さて、私は。実家からは遠く離れているし、なかなか帰れないわで、大した親孝行はできていない、何かしないとなあと我が身を振り返るのでした。

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