尾山神社傍の喫茶店

中部地方

先日帰省の折、金沢に寄りました。秋晴れの日だったことと、コロナの感染者が落ち着いたこともあってか、金沢駅構内や街中はやや混雑していました。バス運転手に行先や道を尋ねる観光客も何人かみかけました。行きたい喫茶店は沢山ありましたが滞在できる時間が短かったため、金沢駅からもそれほど遠くない場所にある、尾山神社の傍の喫茶岸を訪問しました。

中央の冊子は雑誌『Clubism』に喫茶店の連載を寄稿していたうさぎさんの制作。在りし日のチロちゃんの写真が収められています。
お茶菓子として頂いたチーズおかきは金沢にいた頃よく食べた懐かしい味です。

喫茶岸はカウンター5、6席のみの小さなお店でした。奥の棚にボトルが置いてあり夜はお酒も提供しているようです。このお店は月刊誌『Clubism』の連載「うさぎと喫茶」2017年8月号で取り上げられていたため、興味を持っていました。記事によると喫茶岸の内装はかつて金沢市内に7店舗ほど展開していた『禁煙室』を手掛けた蚊爪克郎氏で、喫茶岸のママさんのお兄さんでもあるとのこと。お伺いしたところ、ママさんの知り合いが喫茶岸を開業し、お店を手伝った縁で引き継ぐことになったそうですが、きっかけはお兄さんが内装を手掛けたお店だったことも関係しているそうです。初めてお店の内装を見た時、お兄さんのものだとすぐに分かったそうです。 お兄さんの 蚊爪克郎氏は家具職人と組んで内装を手掛けていたそうで、喫茶岸も家具職人さんの技術が活かされ、店内の戸棚、壁、天井などシックな仕上げになっています。禁煙室は最後の1店が2020年に閉店しましたが、 蚊爪氏が手掛けた内装のうち、現存しているものには武蔵町の『大西洋服店』があるとのことでした(Googleストリートビューにてお店側提供の内外装写真が閲覧可能)。

棚に飾られた加賀人形に金沢らしさを感じます。

お店のもう一つの特徴は猫を飼われていることです。看板猫のキジトラのチロちゃんは他界し、現在はあやめちゃんが看板猫でした。お客さんには猫好きの方が多いようで、客席で眠っていたあやめちゃんに「もう散歩は終わったの」と問いかける方がいました。前述の記事によればママさんは昭和44年に喫茶岸を引き継ぐ前は片町の洋酒喫茶で勤務していたとあります。洋酒喫茶とはどんなお店だったのかを訊ねたところ、現在のスナックのような形態の店で、スナックと異なるのは昼間はコーヒー、夜はお酒を提供していたことです。ウイスキーなどの洋酒以外に日本酒なども提供しており、舶来居酒屋のように洋酒を全面的に売り出していたわけではなかったそうです。「金沢も昔は喫茶店が多かったのよね、店の2階は麻雀店の喫茶も多かった」とママさん。

喫茶岸の裏手はかつて小料理屋やスナックが軒を連ねていましたが、その多くは現在閉店しています。ママさんはずっと猫を飼ってきましたが、スナックのママさんたちも同様に猫を飼っており、かつてこの周りには猫が沢山いたそうです。「スナックが1軒閉店すると飼われていた猫もいつの間にかいなくなったわね」スナックの猫と喫茶岸の猫が喧嘩して、慌てて仲裁に入ったときの話を懐かしそうに語ってくださいました。

喫茶岸の裏手にあるスナック街。雰囲気のある一画ですが、残念ながら閉業しているお店が多そうでした。

お店の訪問記念にとお店のお客さんが趣味で描いている絵葉書をいただきました。コロナの感染者が減ってきたので、最近はご無沙汰だった遠方のお客さんも顔を見せるようになったとのこと。帰省の折にはまた立ち寄りたいと思います。

禁煙室について
禁煙室は1970年初頭から金沢市内でチェーン展開していた喫茶店です。内装には天井、壁など木を多く使用し、ゆったりした椅子を設置して長時間過ごしてもらえる工夫がされていました。繁華街でも路地裏に出店したり、繁華街から外れた場所に出店していたそうで、1974年の段階で片町店、安江町店、本町店、武蔵が辻店、武蔵店の5店舗を展開していたそうです(『コーヒー専門店』月刊喫茶店経営’74年別冊より)。

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