カフェ・ド・フレール創業の頃

東京都

近頃は80年代の内装が気になっています。先日は浅草ROXの吹き抜けやファサードを観察してきました。ROXは90年代に近い内装かもしれませんけど……。そういえば80年代の喫茶店の内装を紹介した本があったなあとパラパラめくっていたら、以前行ったことのある喫茶店が掲載されていたことに気付きました。

そのお店は赤坂のカフェ・ド・フレールでした。内装、所在地は同じですが、店名のみが異なりました。店のロゴデザインは現在のものと似た雰囲気でした。マスターに伺ったところ、前オーナーからお店を引き継いだ際に改名したとのこと。現マスターは前オーナー経営時からお店を手伝っていたため、創業時のことや内装についてもよくご存知でした。開業時はコーヒー専門店、その後軽食も出すことになったそうです。お店の内外装は創業時の1980年当時とほぼ変わらず、ネオン看板、カウンターの衝立設置などごく一部の変更に留まっているそうです。

内装を手掛けたのは永井健司さんというグラフィックデザイナーで、建築専門のデザイナーではないのですが、依頼者とよく相談されたそうで細部まで凝った内装に仕上がっています。壁などにあしらわれたタイルはイタリア製、食器はフランス製で、床は無垢材。食器なども含め多くはイタリアとかフランスの製品を使用していますが、椅子や照明は海外製だとサイズが合わず日本製を使用しているとのこと。イタリアやフランス製に拘った理由は、当時の日本製は洗練されたデザインの製品が少なかったからだそうです。

「この店はガラス張りだし明るい雰囲気でしょう。今は高級に見せるには暗くすればいいと思っているところがある。高級感というのはそうじゃないんです」とマスター。

お手洗いは店内とは対照的にモスグリーンでまとめられています。洗面台の鏡にはカメラのファインダーのような印が描かれ、個室ドアノブ付近にはフランス語で「TIREZ」(引く)、内側には「POUSSE」(押す)と書かれたサインがあり、個室のトイレット・ペーパーにも緑色のものが使用されています(!)。洗面台の鏡のデザインは前オーナーがフランスでカメラマンをしていたからだそうです。

全体的に洗練された雰囲気ながら、モーニングセットのコーヒーのソーサーにはつまようじが添えられるなど、実用的な気遣いがみられます。以前マスターとお客さんの会話で「ミツケ辺りでさぁ…」と聞こえてきたとき脳内で「赤坂見附」に変換し、当たり前ですが地元ではそう言うのかと納得しました。赤坂といえば夜の雰囲気を想像しがちですが、こちらのお店は地元の方や近隣の会社員のお客さんが多く、昼間のローカル赤坂の日常がみえて、都心の街を身近に感じられます。

参考:『商店建築』1981年3月号

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