すぐには見つからない答え

若菜晃子さんの文章が好きですが、一切SNSをされないしネットで自著の宣伝もされないので、著作物の情報を得るのが遅れてしまいます。『街と山のあいだ』も、刊行は10年近く前でありながら、知ったのはつい最近でした。それほど分厚い本ではなく随筆集なので、休みの日に一気に通読することができました。内容は山を愛する若菜さんが山登りの途中で出会った景色や人々、山岳雑誌の編集部で勤務していた頃の思い出など、多くが山にまつわるテーマで構成されています。

若菜さんは山岳雑誌を発行する出版社の編集部に勤めた経験があり、現在はフリーの編集者として山をテーマにした本の編集に携わるほか、文筆家としても活躍されています。私が最初にお名前を知ったのは、『暮しの手帖』で連載していた「徒歩旅行」でした。取り上げられている対象物にさほど興味をもっていない私でも、なぜかするすると読めてしまう文章でした。忙しなく次から次へとたたみかけるように情報を羅列するのではなく、一歩一歩踏みしめながら読み進めるようなペースの文章。そして、ご自身の体験した出来事をいつも率直に表現されていました。

『街と山のあいだ』も同じスタイルの文章でした。随筆集やエッセイ集というのは、読後感がほっとするものであったり、悲しみの中にも安堵する表現があったり、とにかく穏やかな「オチ」があることが多いのですが、若菜さんの作品は異なりました。楽しみや喜びに満ちた文章がある一方で、不安や焦り、恐怖、寂しさ、後悔、戸惑いなどの感情を残したまま、締めくくられた文章もあります。どうすることが正解だったかでもなく、読者が抱いた感情への落としどころがなく、言い訳めいたことも書かれていない。説明しすぎないことが私の心に引っかかるのだろうと思いました。

山に関するエピソードが多い中、喫茶店趣味にも少し通じるものがあると感じたのは山の服装と道具の話、好きな山についての話と山が好きな理由についてでした。山の服装や道具は時間をかけて自分に合ったものを見つけていくのがいちばんだということでした。登山スタイルはそれぞれ異なるのだから、他人に自分のスタイルをお勧めするというのは難しいそうです。それと同じで好きな山も人それぞれ好みがあり、自分で登って見つけていくというものでした。山が好きな理由を訊かれると困るのは、ひと言で表そうとすると陳腐な表現になってしまうからだそうです。本を読んでいけば若菜さんが山のどういうところが好きなのかは少しずつ感じることができますが、それをひと言で表現するのはとても難しいなと。

実は若菜さんの作品と同時期に飲食店エッセイの本を読んでいたのですが、どの話を読んでもしみじみ美味しく、幸せな気分で締めくくられていました。自分もその店を訪れたくなるような素敵な文章でした。ただ、若菜さんの作品を読んだ後では、心に刺さるエピソードは無かったなとも感じました。紹介店は実名なので、美味しくなかったりいまいちな店を実名で挙げることはできず、良いオチしか付けられない。当然ですが、そのお店を自分が訪れたとて、作者と同じ感想を抱くことは決して無いだろうし。比較する対象の本ではないけれども、不自由なものですね。

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